2021.09.08
労使協定方式
派遣労働者の同一労働同一賃金を実現する対応方法には、「労使協定方式」と「派遣先均等・均衡方式」の2つの方法がありますが、派遣先均等・均衡方式は課題が多く、労使協定方式を採用する企業が多くなっています。
派遣受け入れ企業にとって労使協定方式はどのようなメリットがあるのでしょうか?
今回の記事では、同一労働同一賃金を目指す2つの方式の違いやメリットについて詳しくご紹介します。
目次
1.派遣の同一労働同一賃金の対応方法は2種類ある
2.労使協定方式と派遣先均等・均衡方式の大きな違い
「労使協定方式」は一般社会の平均水準が目安
「派遣先均等・均衡方式」は受け入れ企業の社員待遇が目安
3.派遣受け入れ企業が労使協定方式で得られるメリット
賃金が自社社員と同じである必要はない
派遣元への情報提供項目が少ない
4.まとめ
1.派遣の同一労働同一賃金の対応方法は2種類ある
2020年4月に労働者派遣法が改正され、無期雇用フルタイム労働者(正社員)と派遣労働者との間に、待遇差を設けることが禁止されました。
不合理な待遇差を是正するために、派遣元事業主(派遣会社)は「労使協定方式」あるいは「派遣先均等・均衡方式」の待遇決定方式を採用し、納得感のある待遇を確保することが義務化されます。
派遣受け入れ企業が待遇決定方式を選ぶことはできませんが、派遣会社が採用している方式に合わせて、情報提供や教育訓練の実施などの対応を行わなければなりません。
そのため派遣労働者を受け入れている企業の人事担当者は、法律の内容についてきちんと把握しておくことが重要です。
2.労使協定方式と派遣先均等・均衡方式の大きな違い
「労使協定方式」と「派遣先均等・均衡方式」では、派遣受け入れ企業が対応すべき事項に違いがあるため、内容について詳しく知っておく必要があります。両者の違いについて見ていきましょう。
「労使協定方式」は一般社会の平均水準が目安
労使協定方式では、派遣元事業主と過半数労働組合または過半数代表者で労使協定を締結し、待遇を決定します。
引用:厚生労働省「平成30年労働者派遣法改正の概要<同一労働同一賃金>」
二者間の協議によって待遇を決められるのがポイントで、厚生労働省が公開する「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」と同等以上でなければなりません。あくまでも派遣受け入れ企業があるエリアの労働者の平均賃金が基準となり、派遣受け入れ企業の給与は関係ありません。
しかし派遣受け入れ企業は、業務に必要な教育訓練や給食施設・休憩室・更衣室について、自社の正社員と同じものを利用できるよう配慮しなければならず、それらに関する情報を派遣会社に提出する必要があります。
派遣先均等・均衡方式は受け入れ企業の社員待遇が目安
一方、派遣先均等・均衡方式では「派遣を受け入れている企業で同等の仕事をしている正社員と派遣労働者の待遇を同等のものにすること」が定められています。派遣受け入れ企業は自社の正社員の待遇情報を派遣会社に提供し、派遣会社が派遣労働者の意欲やスキルなどを考慮して賃金を決定します。
引用:厚生労働省「平成30年労働者派遣法改正の概要<同一労働同一賃金>」
正社員と派遣労働者の待遇の格差を無くすという同一労働同一賃金の目的に合った方法ではありますが、派遣労働者にとっては、勤め先が変わるごとに給与が変動するリスクを負わなければいけません。
また、派遣受け入れ企業にとっても、基本給や賞与、手当、福利厚生などの情報を提供する負担が生じるため、派遣先均等・均衡方式を採用する派遣会社は少ないようです。
3.派遣受け入れ企業が労使協定方式で得られるメリット
労使協定方式を選ぶ派遣会社が多くなっていますが、派遣受け入れ企業にとっても大きなメリットがあります。くわしく確認していきましょう。
賃金が自社社員と同じである必要はない
派遣先均等・均衡方式では、派遣労働者の賃金や賞与、手当、退職金などは派遣受け入れ企業の正社員と同等にすることが求められますが、労使協定方式ではその必要はありません。
労使協定方式における同一労働同一賃金の比較対象は「派遣受け入れ企業」ではなく「一般社会」となるため、給与水準が高い企業は少ない負担で派遣社員を受け入れることができます。
また、労使協定方式の賃金は厚生労働省が定めた算出方法をもとに派遣元会社が決定し、派遣社員と契約を交わすので、派遣受け入れ企業に賃金に関するクレームが入りにくいのもメリットです。
ただし、賃金以外の福利厚生や教育研修などは、正社員と同等に扱う義務があるので注意しましょう。
派遣元への情報提供項目が少ない
同一労働同一賃金では、派遣受け入れ企業から派遣元事業主に対し、待遇に関する情報提供が求められますが、下記のように労使協定方式の方が提供する情報が少なく済みます。
<派遣先均等・均衡方式>
・比較対象労働者の職務内容や雇用形態など
・比較対象労働者の選定理由
・比較対象労働者の待遇情報
・比較対象労働者の待遇の性質と目的
・比較対象労働者の待遇決定にあたり考慮した事項
<労使協定方式>
・派遣労働者と同種の業務を行う正社員に対して実施する教育訓練
・給食施設、休憩室、更衣室
派遣先均等・均衡方式では、職種の内容などが同じ「比較対象労働者」を選定した上で、彼らの待遇情報を詳細に派遣会社に伝える必要がありますが、労使協定方式なら福利厚生などに関する情報のみです。
4.まとめ
労働者派遣法では派遣元企業に労使協定方式または派遣先均等・均衡方式のどちらかの方法を選んで、派遣労働者の同一労働同一賃金を実現することを義務付けています。
2つの方式の大きな違いは賃金待遇の決定方法にあります。労使協定方式では一般社会の平均水準が目安になりますが、派遣先均等・均衡方式では派遣受け入れ企業の正社員待遇が目安となります。
このため、正社員と賃金格差があっても問題ないことや、待遇に関する膨大な情報提供をしなくて済むことなどが派遣受け入れ企業にとってのメリットとなり、労使協定方式を選ぶ企業が多くなっています。
ただし、派遣元から求められた場合には待遇に関する詳細な情報提供が必要なほか、研修や福利厚生など賃金以外の待遇は正社員と平等に扱う義務があるので注意しましょう。