2021年4月1日、中小企業においてもパートタイム・有期雇用労働法が適用され、大企業と同様に「同一労働同一賃金」の義務を負うことになりました。
2020年に独立行政法人労働政策研究・研修機構が中小企業9,027社に対して実施した「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査」によると、「同一労働同一賃金という言葉を聞いたことがある」「ルールを知っている」と回答した企業が95.4%を占め、関心の高さがうかがえます。
その一方、2021年10月に再度アンケート調査を行ったところ、「同一労働同一賃金の対応完了」と回答した企業はわずか14.9%しかなく、「対応方針は未定・わからない」とした企業が19.1%に達しています。関心はあるものの、どう対策すればいいのかわからない企業は多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「同一労働同一賃金」に求められる対策を6つの手順で詳しく解説します。
目次
1.中小企業も対象に「同一労働同一賃金」とは
「同一労働同一賃金」とは
同一労働同一賃金対策の期限と罰則
2.同一労働同一賃金の対策手順①~⑥
①労働者の雇用形態を確認する
②待遇状況を確認する
③待遇差の理由を確認する
④「不合理な待遇差ではない」と説明できるように整理しておく
⑤「法違反」からの脱却を目指す
⑥改善計画を取り組む
3.不合理な待遇差を判断する方法
待遇の比較対象
待遇差の判断手順
4.まとめ
1.中小企業も対象に「同一労働同一賃金」とは
まずは、中小企業も対象となった「同一労働同一賃金」の概要をご紹介します。
「同一労働同一賃金」とは
「同一労働同一賃金」とは、正規雇用者か、非正規雇用者(パート・アルバイト・契約社員・派遣社員など)かに関わらず、同一の賃金を支給しようとする考え方のことで、不当な待遇差の解消を目指すものです。
2020年4月1日に「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)」が施行され、まずは大企業を対象に同一労働同一賃金が義務化。さらに1年後の2021年4月1日に中小企業も追加対象となりました。
同一労働同一賃金対策の期限と罰則
「パートタイム・有期雇用労働法」では同一労働同一賃金が義務化されていますが、あくまでも不合理な待遇差の解消を目指すひとつの考え方ですので、明確な対応期限はなく、違反した際の罰則も定められていません。
ただし、対応を怠ったり、虚偽報告をしたりすれば、事業主に対する行政の指導や勧告、過料、事業主名の公表などが行われる可能性があります。さらに労働者から告訴され、民事責任を問われる恐れもあるため、迅速に対策することがおすすめです。
2.同一労働同一賃金の対策手順①~⑥
同一労働同一賃金の対策とは、すなわち「正規雇用者と比べ、すべての非正規雇用者の待遇が不合理ではないと確認すること」「不合理な差があれば、均衡な待遇を確保すること」を指します。
ここからは、同一労働同一賃金への対応を6つの手順で解説します。
①労働者の雇用形態を確認する
まずは、対象となる短時間労働者・有期雇用労働者の有無を調べ、リストを作成します。雇用形態が同じでも、待遇が異なる場合は区分して書き出すと良いでしょう。
※厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」より抜粋
②待遇状況を確認する
対象の労働者を整理したら、賃金(賞与・手当を含む)や福利厚生などの待遇について、正社員と不合理な違いがないかを確認します。問題なければ、今すぐ対応するべき課題はありません。
③待遇差の理由を確認する
待遇差がある場合には、働き方や役割、責任の有無など合理的な理由に基づくものであるかを確認します。職務内容や勤務日数の相違による待遇差は「不合理である」と判断され、法に沿った改善が求められます。
賞与を例に見ると、下記のような理由の待遇差であれば、合理的であると考えられます。
- ・正社員:成績に応じて1~4カ月分を支給
- ・非正規労働者:1カ月分を一律で支給→違いを設けている理由:非正規労働者は定型業務でノルマがなく、会社への貢献度合いが一定のため一律の支給とする
④「不合理な待遇差ではない」と説明できるように整理しておく
「パートタイム・有期雇用労働法」では、労働者から待遇差の内容や理由についての説明を求められたときには、事業主は応じる義務があるとしています。従業員から待遇差について疑問が上がったときに答えられる明確な理由や方針を準備しておきましょう。
正社員と待遇差があるときには、その違いが「不合理なものではない」と説明できるよう、短時間労働者・有期雇用労働者の区分ごとに、理由や考慮した事項を文書に整理しておくことが大切です。
※厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」より抜粋
⑤「法違反」からの脱却を目指す
正社員との待遇差が、多少なりとも不合理と認められる場合には、早急に改善計画を立てて検討する必要があります。また、たとえ待遇差が合理的理由によるものであっても、より良い雇用管理に向けて改善の余地がないかを検討しましょう。
⑥改善計画を取り組む
改善の必要があると考えられる場合には、労働者の意見を取り入れながら、就業規則や賃金規定の見直しに取り組みましょう。
3.不合理な待遇差を判断する方法
正社員と短時間労働者・有期雇用労働者との待遇差が、「不合理なもの」であるかを判断する基準を解説します。
待遇の比較対象
同一労働同一賃金の待遇の比較対象となるのは、同一の事業主に雇用される通常の労働者(正社員・無期雇用のフルタイム労働者)です。正社員には総合職、一般職、限定正社員など形態の違いはありますが等しく比較対象となります。
対象となる待遇は、基本給や賞与、各種手当、福利厚生のほか、教育訓練や安全管理などすべての待遇です。
待遇差の判断手順
待遇差の判断は、以下の手順で行います。
1)短時間労働者・有期雇用労働者と正社員の両者を「職務の内容(業務内容、責任の程度)」と「職務内容と配置の変更範囲」からみて、同じ待遇にすべき「均等待遇」の対象か、合理的な待遇差が必要な「均衡待遇」の対象かを判断します。
2)「均等待遇」であった場合、待遇に差別的な扱いがないかを確認します。均等待遇では、差別的取り扱いは禁止されているため、待遇差が見られた場合は改善しましょう。
3)「均衡待遇」の場合は、待遇ごとの性質や目的に応じて、以下の3考慮要素で適切と認められるかを点検します。この考慮要素の違いからみて不合理な待遇差は禁止されています。
<均衡待遇の3考慮要素>
・職務の内容(業務内容、責任の程度)
・職務内容と配置の変更範囲
・その他の事情
詳細は、厚生労働省が発行している「同一労働同一賃金ガイドライン」に考え方と具体例が示されているので、参考にしましょう。
※厚生労働省「不合理な待遇差を点検・検討する枠組み、留意点」より抜粋
4.まとめ
中小企業の短時間労働者・有期雇用労働者を対象とした「同一労働同一賃金の義務化」は、義務ではあるものの期限や罰則は定められていません。しかし対策の怠りや虚偽報告があった場合は、行政の指導・勧告、過料、事業主名公表の他、労働者から賠償請求される恐れもあるため早期の対応は必須です。
対策手順としては、まず対象となる短時間・有期雇用労働者と比較対象者を洗い出し待遇差がないかを確認します。待遇差があった場合は不合理なものであれば改善し、合理的な理由があるものであれば、従業員に明確に説明できるように理由や方針を整理して文書化しておくことが大切です。
「不合理な待遇差」にあたるかの判断基準は、待遇の性質や目的、職務内容、責任の程度、職務と配置の変更範囲などを考慮します。迷う場合は厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」を参考に判断しましょう。