2021年3月1日、厚生労働省から派遣労働者の待遇改善を図るための施策やノウハウがまとめられた「派遣労働者の待遇改善に向けた対応マニュアル」が公開されました。
100ページ以上ある「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(労働者派遣業界編)」と比べ、派遣会社が抱える同一労働同一賃金に関する悩みや対応策が事例などをもとにコンパクトに整理された資料で、経験の浅い人にとっても読みやすく、実務上の心強いヒントになります。
そこでこの記事では、「派遣労働者の待遇改善に向けた対応マニュアル」についてわかりやすく解説します。
目次
1.「派遣労働者の待遇改善に向けた対応マニュアル」が公開
2.派遣先との派遣料金の交渉
派遣先に料金交渉の必要性を適切に説明することが難しい
派遣料金の引き上げに応じてもらえない
3.派遣労働者に対する待遇内容等の説明
待遇改善の仕組みを派遣労働者に説明することが難しい
賃金見直しに対する派遣労働者の不満を解消できていない
4.まとめ
1.「派遣労働者の待遇改善に向けた対応マニュアル」が公開
2021年3月1日に厚生労働省から公開された「派遣労働者の待遇改善に向けた対応マニュアル」には、派遣会社が派遣労働者の待遇改善を図るうえでの「困りごと」とその対応策が、想定される場面ごとにコンパクトにまとめられています。
紹介している内容が労使協定方式なのか、派遣先均等・均衡方式なのか、あるいはどちらにも当てはまるのかが色分けして掲載されているため、探しやすい形式です。1章で困りごとを、2章で困りごとへの対応策を紹介する構成で、全24ページとなっています。
具体的には、下記の困りごととその対応策が紹介されています。
労使協定方式 | 派遣先均等・均衡方式 | 両方式 |
---|---|---|
・立候補者が現れず代表者を選出できない
・代表者を決めるための投票が過半数集まらない ・各人の業務の内容や能力を待遇に反映させる仕組みができていない ・派遣先によって評価基準が異なり統一した基準で評価ができない |
・派遣先の情報が不十分で、 待遇を検討できない
・派遣先の人事評価結果の妥当性を判断できない |
・派遣先に料金交渉の必要性を適切に説明することが難しい
・派遣料金の引き上げに応じてもらえない ・待遇決定の仕組みを派遣労働者に説明することが難しい ・賃金見直しに対する派遣労働者の不満を解消できていない |
中でも、両方式に当てはまる4つの困りごとは、どの派遣会社も直面する悩みではないでしょうか。次章より、それら4項目をピックアップして、その対応策をマニュアルからご紹介します。
2.派遣先との派遣料金の交渉
派遣労働者の待遇を改善するためには、派遣受け入れ企業との派遣料金の交渉を円滑に進めることが重要です。交渉時に発生しがちな困りごとと、その対応策をみていきましょう。
派遣先に料金交渉の必要性を適切に説明することが難しい
同一労働同一賃金により、派遣受け入れ企業は派遣料金について、労使協定方式か派遣先均等・均衡方式によって待遇改善を行うよう配慮しなければなりません。しかし、企業によっては労働者派遣法に対する理解度が不足しており、派遣料金の交渉が難しいケースがあります。
その場合、派遣受け入れ企業が料金見直しの必要性をよく認識できるよう、料金交渉を行う前に公的資料などを用いて法律の趣旨や内容を説明し、理解してもらうことが有用です。
例えば、厚生労働省が公開している「派遣先の皆さまへ」を参考にして説明資料を作成し、派遣受け入れ企業を回って説明するのも有効でしょう。一度の交渉で合意が得られなかった場合でも、責任者自らが訪問する、複数回訪問を繰り返すことで料金値上げの合意を得られた事例もあります。
派遣料金の引き上げに応じてもらえない
派遣料金の値上げ交渉で、「派遣料金のマージンを上げることが目的では?」と派遣受け入れ企業に不信感をもたれてしまい、料金引き上げに応じてもらえないことも想定されます。この場合、派遣労働者の待遇改善を実現できる派遣料金で合意が得られるよう、引き上げに納得してもらうことが大切です。
その対応策として、派遣料金の内訳および値上げの根拠の明示が推奨されます。これまでの派遣料金と、引き上げ後の派遣料金の内訳を図示した資料を作成すれば、派遣受け入れ企業の懸念を取り除くことが期待できるでしょう。
※引用:厚生労働省「派遣労働者の待遇改善に向けた対応マニュアル」
3.派遣労働者に対する待遇内容等の説明
派遣労働者に対する待遇内容を説明する際に難航するケースも少なくありません。説明時に発生しがちな困りごとと、その対応策をみていきましょう。
待遇改善の仕組みを派遣労働者に説明することが難しい
待遇決定の仕組みはわかりにくいものです。派遣労働者にとっても難しく、理解度にばらつきがでるケースが考えられるため、まずは一人ひとりの理解が深まるよう工夫をして十分に説明することが大切です。
例えば、説明のマニュアル化が有用でしょう。既存の公的資料や待遇改善の根拠となる情報を活用し、図示したり、噛み砕いたりして、分かりやすい表現を心がけます。
すべての派遣社員向けに講習会を開催した後、個別面談で一人ひとりに説明を行うことで、待遇改善への納得感を養うこともできるでしょう。
賃金見直しに対する派遣労働者の不満を解消できていない
待遇見直しの結果、同じ職種でも業務内容や成果、能力、地域などにより、賃金が変わる場合があり、派遣労働者が不満を抱えることもあります。
本人の賃金に変更がなくても、不平等感が生まれないよう賃金見直しの仕組みや根拠を示した資料を全員に配布し、説明やフォローをしましょう。
既存の個別面談などを活用し、一人ずつ賃金変更と理由を説明することも望ましい対応です。疑問や不満を持った時に相談できる問い合わせ先を派遣労働者に周知すること、相談窓口を設置しておくことなどの対策も重要です。
4.まとめ
2021年3月1日、厚生労働省から「派遣労働者の待遇改善に向けた対応マニュアル」が公開されました。その名の通り、派遣労働者の待遇改善を図るためのノウハウがコンパクトにまとめられた資料です。
1章で困りごと、2章で困りごとへの対応策が紹介されており、労使協定方式、派遣先均等・均衡方式ごとに分かれて記載されているため読みやすい構成になっています。
本マニュアルをもとに、派遣受け入れ企業や派遣労働者から不信や不満を持たれないよう、丁寧に対応しましょう。