2021.12.17
人事・労務
近年、女性の社会進出や少子化対策の一つとして男性の積極的な育児参加が叫ばれていますが、2020年度の男性の育休取得率は12%と、非常に低い水準にとどまっているのが現状です。
そんな状況を改善すべく、2021年に改正育児・介護休業法が可決され、2022年4月から順次施行されます。「男性版産休の法制化」はその目玉と言われています。
改正内容には、企業は義務として男性の育休取得を促すことも盛り込まれており、担当者は詳細を把握し体制を整えておかなくてはなりません。
今回は、2022年から施行される「男性版産休」の概要と、企業として押さえておきたい新ルールのポイント、法改正により企業側が得られるメリットなどを解説します。
目次
1.2022年から追加される「男性版産休」とは
2.男性の産休取得状況と普及しない原因
男性の産休取得状況
男性の産休が普及しない原因
3.法制化で追加される新ルールのポイント
企業責任が努力義務から義務へ変わる
育休取得状況の公表が義務化される
1年未満の有期雇用労働者も取得可能になる
柔軟な育休取得ができるようになる
3段階で順次施行
4.男性版産休の法制化がもたらす企業側のメリット
5.まとめ
1.2022年から追加される「男性版産休」とは
2021年6月に「改正育児・介護休業法」が成立し、2022年4月から順次施行されます。そのなかでも大きな注目を集めているのが、「男性版産休」とも呼ばれる新制度「出生時育児休業制度」です。
出生時育児休業制度は、男性の育児休業取得促進を目的に、柔軟に育児休業を取れる仕組みを制度化したものです。
例えば、「長期間まとめて休めない」「出産状況や里帰りから戻るタイミングにあわせて取得したい」といった父親の悩みに対応するため、休みを現行の育休と合わせて最大4回まで分割できるうえ、育休中に一定量働くことも認められます。
また、申請締め切りも現行の育休制度では原則1ヵ月前までとされていたものが2週間前までに変わり、出産日に合わせた休みが取得しやすくなるのも大きな特徴です。
2.男性の産休取得状況と普及しない原因
男性版産休といわれる制度が新たに設けられたのは、現行制度では男性の産後・育休取得がなかなか進まないことが理由です。実際の取得状況と普及しない原因をみていきましょう。
男性の産休取得状況
厚生労働省の「令和2年度雇用均等基本調査」によると、男性の育休取得率は過去最高値となった2020年度でもわずか12.65%となっています。前年度の7.48%から約1.7倍の伸びを示してはいるものの、対象者の1割にも届きません。
しかも育休利用者の取得期間は、3日以内が43.1%と最も多く、4~7日が25.8%で2位。7割近い男性が数日程度しか休んでいない状況です。
政府は2025年までに男性の育休取得率を30%に引き上げる目標を掲げていますが、多くの課題があることが分かります。
男性の産休が普及しない原因
現在でも労働基準法と育児・介護休業法により、男性の育児休暇取得は認められています。それにもかかわらず、これほどまでに男性の産休が普及しない理由には以下のようなものがあげられています。
- ・会社の制度や周知が不十分
- ・取得しにくい職場風土や上司の理解不足
- ・業務の多忙やフォロー体制の不足
- ・収入減少の不安
- ・費用負担
- ・労働時間の管理方法
会社の制度不備や職場風土に関する理由が多いことから分かるように、日本の多くの企業では、男性の育休は十分な認知と理解を得られていません。新制度は、これらの理由を排除するように整えられていることがポイントです。
3.法制化で追加される新ルールのポイント
男性版産休が法制化されたとしても、従来のように会社の制度不備や職場風土などに利用取得が阻まれては、政府が掲げる2025年までの取得率目標30%は達成できません。そのため新ルールでは、育休取得の利用促進を企業側の義務として掲げています。
企業責任が努力義務から義務へ変わる
育児休業の取得に対する企業責任は、これまで努力義務とされていました。そのため積極的に取得を推進したり、対象者に希望を聞いたりする企業が少なかったというのが、取得率の低さにつながっていると考えられます。
法改正後は育児休業を取得しやすい雇用環境の整備と職場作りを目指すため、育休制度の周知と取得の意向確認・促進が事業主に義務づけられます。
育休取得状況の公表が義務化される
育休を取得しやすい環境作りの一環として、従業員1,000人以上の企業に対し、育休取得状況の公表が義務化されます。これまでは、プラチナくるみん企業(「子育てサポート企業」として厚生労働大臣の認定を受けた企業)のみが公表義務を負っていましたが、法改正後は対象範囲が大きく広がります。
1年未満の有期雇用労働者も取得可能になる
現行では、有期雇用者の育休取得要件は「1年以上雇用された者」とされています。法改正後はその枠が撤廃され、1年未満の有期雇用労働者も育休を取得できるようになります。
ただし、労使協定を締結している場合には無期雇用と同様に、雇用された期間が1年未満である労働者については、対象には含まれません。
柔軟な育休取得ができるようになる
男性版産休の導入や条件緩和によって、育休の分割や取得中の就労も認められるようになります。労使協定を締結しており社員と企業が合意すれば、育休中でも仕事が可能なため、業務から離れる不安や収入減少に対するリスクを軽減できます。
このように、分割や一時的な就労もできるようになれば、長期間まとめて休むのが難しい人や、育休期間中の収入減少に不安があって取得をためらっていた人も、利用しやすくなるでしょう。
3段階で順次施行
改正された育児・介護休業法は、2022年から以下の流れで段階的に施行されます。
2022年4月1日
- ・企業による環境整備・個別の周知義務付け
- ・企業から従業員への育休取得の促進の義務付け
- ・有期雇用労働者の取得要件緩和
2022年10月1日
- ・出生時育児休業(男性版産休)制度の導入
- ・育児休業の分割取得導入
2023年4月1日
- ・取得状況の公表義務付け対象が従業員1000人以上に拡大
企業側は施行直前に慌てることがないように、早めに準備を進めましょう。
4.男性版産休の法制化がもたらす企業側のメリット
男性版産休の法制化は、企業側にも少なからずメリットをもたらします。
たとえば男性も産休を取りやすくなれば、これから結婚、育児を行う若い世代の従業員のモチベーションが向上すると考えられます。企業への帰属意識が高まれば、離職のリスク低減にもつながるでしょう。
さらに社員が一定期間業務を離れることを前提に仕事が進むようになると、業務が見える化されます。業務が属人化しなくなれば、職場全体の協力体制が整い、互いに協力し合える職場風土が育つのもメリットです。一時的な人員減少を乗り切るために、効率化を進めたりチーム力を高めたりできる、対応力のあるリーダーが育つことも期待できます。
男性でも産休を取りやすい企業として評判になれば、企業イメージが向上し、人材確保にも好影響を与えるでしょう。
5.まとめ
2022年の4月から施行される「改正育児・介護休業法」は、男性の育休取得率を高めるために、育休取得に柔軟性を持たせ、企業側にも義務を課しているのが特徴です。
その一番の目玉といわれる「出生時育児休業(男性版産休)」政策では、育休の分割取得、申請日の短期化、育休中の就労を可能にするなど、これまでの課題を解決する柔軟な制度で取得率の向上を目指します。
育休が取得しにくい大きな要因として職場の制度不足や風土があげられているため、企業側は、育休の周知と取得の意向確認、取得状況の公表義務なども負うことになりました。
しかし前向きに対応すれば、従業員のモチベーションや帰属意識のアップ、企業イメージ向上による人材確保の改善など多くのメリットも得られます。
改正育児・介護休業法は、2022年から順次施行されるので、直前に慌てることがないように早めに対応をすすめましょう。