派遣社員を受け入れる企業では、派遣先責任者の選任が義務づけられています。
派遣先責任者には、派遣労働者の適正な就業環境を確保し、派遣トラブルへの対処も求められるなど重要な役割があります。そのため、誰をどのように選任すべきか迷うこともあるでしょう。
そこで本記事では、派遣先責任者の職務や選任要件などについて詳しく解説します。義務化される可能性が高いとされている派遣先責任者講習についても紹介しますので、参考にしてください。
目次
1.派遣先責任者の職務
派遣先責任者とは?
派遣先責任者の職務
2.派遣先責任者の選任について
派遣先責任者の選任要件
派遣先責任者の選任数
3.義務化する可能性大!派遣先責任者講習について
派遣先責任者講習とは?
派遣先責任者講習の対象
派遣先責任者講習の内容
4.まとめ
1.派遣先責任者の職務
まずは、派遣先責任者の職務を把握しておきましょう。
派遣先責任者とは?
派遣先責任者とは、派遣会社から派遣された労働者に関する就業の管理を一元的に行い、派遣社員が適正な就業を行えるよう環境を整える役割を担う者です。
派遣先責任者は労働者派遣法第41条に基づいて、派遣を受け入れる事業所ごとに、派遣先(派遣受け入れ企業)の雇用する労働者の中から選任します。派遣先責任者を選任しないと、労働者派遣法第61条第3号に該当し、30万円以下の罰金を課せられる可能性があるため注意が必要です。
労働者派遣トラブルを回避するための重要なキーパーソンとなる派遣先責任者ですが、適切に運用している企業は多くありません。少し古い調査ですが、厚生労働省が2005 年に行った「労働力需給制度についてのアンケート調査(派遣先調査)」によると、派遣先責任者の業務を実際に行っているのは約半数が責任者本人以外となっています。
「派遣先責任者」というポストを形骸化せず、適正な人物を選任して講習を受けさせるなど、適切に運用することが企業には求められます。
派遣先責任者の職務
派遣先責任者の具体的な職務内容は以下のとおりです。
- ・適用される労働関係法令や締結した労働者派遣契約の内容などについて周知すること
- ・派遣受け入れ期間の変更通知に関すること
- ・派遣先管理台帳の作成、記録および保存等に関すること
- ・派遣労働者から申し出を受けた苦情の処理に当たること
- ・安全衛生に関すること
- ・派遣元(派遣会社)との連絡調整に関すること
- ・派遣先における教育訓練や福利厚生施設の提供など均衡待遇に関すること(2020年法改正により追加)
2.派遣先責任者の選任について
ここでは派遣先責任者を選任する際の要件と選任数をご紹介します。
派遣先責任者の選任要件
派遣先責任者は、派遣先(派遣受け入れ企業)自らが雇用する人の中から選任します。役員を選任しても構いませんが、株式会社および有限会社の監査役は選任不可とされています。
派遣先責任者になるための必須資格はありませんが、労働関係法令に関する知識がある、人事・労務管理等についての専門的知識や実務経験がある、派遣労働者の就業について権限を有するなど、職務を的確に遂行できる人を選任するよう努めなければなりません。
派遣先責任者の選任数
派遣先責任者は、派遣労働者の数が100人以下の場合は1人以上、101~200人の場合は2人以上と、100人ごとに1人以上ずつ選任する必要があります。ただし派遣労働者数と事業所の労働者数の合計が5人を超えない場合には、派遣先責任者を選任しなくて良いとされています。
また、製造業務に携わる派遣社員を51人以上受け入れる場合、既にいる派遣先責任者とは別に専門の派遣先責任者を1人選任しなければなりません。
3.義務化する可能性大!派遣先責任者講習について
ここからは、義務化される可能性が高いといわれている派遣先責任者講習についてご紹介します。
派遣先責任者講習とは?
派遣先責任者講習とは、派遣先責任者が職務を的確に遂行するための能力向上を目的とし、関係法令やその職務に関する必要な知識等を付与するために行われる講習です。「派遣先責任者講習の実施に関するガイドライン」に基づいて、厚生労働省に届け出た事業所が実施します。
ガイドラインでは、新たに派遣先責任者を選任したときや、労働関係法令の改正が行われたときに講習を受講させることが望ましいとしています。
受講は必須ではありませんが、いずれ受講が義務化される可能性が高いのではないかといわれています。
そもそも派遣会社が置く派遣元責任者については、過去3年以内に派遣元責任者講習を受講していることが要件です。派遣スタッフの保護のためには、派遣受け入れ企業も担当者の知識レベルを向上させることが望ましいでしょう。
派遣先責任者講習の対象
派遣先責任者講習の対象者は、現在すでに派遣先責任者に選任されている人や選任が予定されている人、そのほか労働者派遣事業に関する一定水準の知識を習得し、理解を深めようとする人が対象です。
派遣先責任者講習の内容
派遣先責任者講習では、5時間を下回らない範囲内で、主に下記内容についての知識の習得を目指します。
- ・労働者派遣事業の適正な運営の確保および派遣労働者の保護等に関する法律
- ・労働基準法等の適用に関する特例等
- ・派遣先責任者の職務遂行上の留意点
4.まとめ
派遣労働者を受け入れる企業は、派遣労働者100人につき1人以上の派遣先責任者を置くことが義務づけられています。(派遣労働者と事務所の労働者の合計が5人を超えない場合を除く)
派遣先責任者には、派遣受け入れ企業において派遣スタッフに関する就業を一元管理し、労働者派遣トラブルを防ぐ重要な役割が課されていますが、その重要性を十分に認識している企業は少ない状況です。
派遣トラブルを回避するためにも、派遣先責任者には、労働関係法令についての知識や人事・労務管理などの知識・実務経験があり、職務を的確に遂行できる人を選任することが大切です。これから義務化される可能性が高いとされている派遣先責任者講習を受講させることも検討すると良いでしょう。